私の人生は、いくつもの境界線を越える「越境」の連続です。東京と湯河原、ふたつの拠点を行き来する暮らしのなかで、私の「リトリート(本来の自分に還る旅)」の原点となった場所、それが神奈川県湯河原です。
かつての私は、東京の目まぐるしいスピードと満員電車の閉塞感、そして多忙な仕事に追われ、知らず知らずのうちに心身の限界を迎えていました。
2011年、有楽町駅で突発的な激しい腹痛に襲われ、その場で歩けなくなってしまったことがあります。救急車を呼んでもらうほどの痛みでしたが、原因はとうとうわからないままでした。物質的な豊かさばかりを追い求め、呼吸を忘れていた私に、心と身体が上げてくれた「生き方を変えて」という切実な警告だったのだと思います。
「自然を感じられる場所へ行こう」 そう突き動かされるようにして、2012年から始めたのが湯河原との二拠点生活でした。実は湯河原にはかつて祖父母の家があり、子どもの頃から慣れ親しんだ、私にとっての「原風景」が眠る場所でもありました。
都会で迷子になった私の身体が本能的に求めたのは、あのどこか懐かしい、無条件に包み込んでくれる空気だったのかもしれません。
東京からローカル線に揺られて、わずか1時間半。神奈川の西南端、箱根外輪山と伊豆の山々、そして真鶴半島に三方を抱かれたこの地は、豊かな緑と清らかな川、そして尽きることのない温かな湯につつまれています。
冬は黒潮の恵みで驚くほど穏やかに暖かく、夏は山から海へと吹き抜ける風が、東京の熱気をやわらかく洗い流してくれる。相模湾の近海で獲れる新鮮な魚、山里からの清冽な湧き水——この土地には、命を支える循環が静かに息づいています。
そして初夏、湯河原の川辺には蛍が舞います。万葉公園で毎年開催される「ほたるの宴」(蛍を愛でる夕べ)のほのかな光のなかに立つとき、都会で強張っていた五感が、音もなくほどけていくのを感じます。ここで大切にされてきた自然の調律に、自分の身体もそっと合わせていくような感覚です。
何者かになろうとする焦りを手放し、ただ五感を開いて、湯の温もりに身を委ね、海の音を聴き、山の緑に目を細める。そこには、ただ「私」に還るための中立な時間——Heart Neutralが流れています。
あなたも、日常のスピードから少しだけ足を止めて、この湯河原の自然に心身を調律してみませんか。

|湯河原宅の窓からみえる景色。

